「外出禁止命令!?」

「もう、声が大きいわ」
フィオナ様の言葉に慌てて口元を抑える。今の声量ではもしかしたら廊下に響いたかもしれない。
麗らかな午後。窓から外を伺うと、空はこちらの事情など気にする様子もなく、よく晴れていた。

――ここはレルム大公国。

旦那様……つまり、公爵様又の名を大公様が治めるこの国は小さいけど平和で、私はこの国以外知らない。

私がお世話させて頂いているフィオナ・アマルリック様は公爵家の令嬢だ。

そのフィオナ様も年頃になり、次々と求婚者が現れ始めたのはもう一年以上前のこと。
フィオナ様の夫イコール次期大公だ。つまり今回の婚約には大公の座がかかっている。

それにフィオナ様美人だし、まさに鴨がネギしょってヘイカモン状態。モテないわけがない。

だが肝心のフィオナ様は婚約どころかろくに顔も合わせようとしなかった。
当たり前だけど求婚者の皆様はほとんどが名家の跡継ぎであるにも関わらず、だ。

それには理由があった。

フィオナ様は、街でパン屋を営んでいるある若者に恋をしていたのだった。
片や公爵家の令嬢、片や平民の息子。 身分が釣り合うはずもない。
当然お二人の恋は誰にも秘密で、フィオナ様はよく屋敷を抜け出しては恋人と逢瀬を交わした。

もちろん私もそれに協力していたんだけど……だけど、一年以上経っても求婚者達につれないばかりのフィオナ様に、公爵様はついに大激怒。

外出禁止命令。
かわいそうなフィオナ様は、婚約者を決めるまで屋敷を出ることを禁じられてしまった。
そして、どうしたものかと考えていた矢先にフィオナ様に呼ばれて部屋に行ってみれば「私この家を出ます(にっこり)」である。

あああどうしようちょっとおおお!なんて頭を抱えている暇なんか私には、なかった。

こうなったらやるしかない。

他でもないフィオナ様の為、何としてもみんなを欺いてフィオナ様を逃がしてみせる!